2007年9月 1日 (土)

「Monodia」Tigran Mansurian, Kim Kashkashian

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Img_ecm_n_1850_51西アジアの国アルメニア出身の"ティグラン・マンスリアン"作曲と、アルメニア系移民のアメリカ人"キム・カシュカシアン"演奏による「モノディア」。この作品を語るには、まずアルメニアの歴史のお勉強が必要であろかと思うが、その歴史を一口では語ることは到底出来るものではない。紀元前:アルメニア王国から、1991年にアルメニア共和国として独立を遂げ現在に到るまでの約2000年間、その歴史は筆舌し難く想像を絶する。ローマ帝国とペルシャ帝国、帝政ロシアやオスマン帝国等の間にあって、帝国の緩衝地帯として時にその支配下や属国になる時代、10世紀頃には隣国の相次ぐ侵入で多くのアルメニア人が故国を捨てざるを得ない時代があり、独立後の現在も隣国との火種が燻っている。
 そこで当作品を聴くにあたり一言。アルメニアの背景を知るにつれ思うに、当作品は真摯に謙虚に心を静めて聴くことが肝要であると思います。
 そんな「モノディア」は確固たる信念に元ずく芯の通ったひたむきな作品である。アルメニアの歴史と民族の魂(ソウル)が、マンスリアンの作品とカシュカシアンの演奏に秘める炎のような熱き想いとして聴こえてくる感がする。"キム・カシュカシアン"は、私が「女流ECMアーティストで誰が一番好き」と訊かれたら、迷わず「音も演奏もルックスも"キム・カシュカシアン"が一番」と答えるほど大好きなアーティストであるが、その魅力の原点が当作品に内在していることを強く感じる。少々硬派な作品だが聴き応え十分の傑作。(一幸斉)
★アーティスト
Kim Kashkashian viola
Leonidas Kavakos violin
Jan Garbarek soprano saxophone
[Münchener Kammerorchester]
Christoph Poppen conductor
[The Hilliard Ensemble]
David James counter-tenor
Rogers Covey-Crump tenor
Andreas Hirtreiter tenor
Gordon Jones baritone
★アルバム・データ
Recorded November 2001 and January 2002
ECM New Series 1850_51

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2007年8月 8日 (水)

J.S.Bach「The Sonatas and Partitas for Violin Solo」Gidon Kremer

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今作ECM盤のJ.S.Bach「The Sonatas and Partitas for Violin Solo」は1980年のフィリップス盤より約20年ぶりに再録された作品。各方面より絶賛を浴びる高い評価は、すでに広く知れるところである。よって私(一幸斉)がレビューを書く余地はないと思うが、ECMファンとしての率直な思いだけを記したい。名盤といわれる1980年フィリップス盤がありながらの今作は、繰り返し聴いても聴き尽くせないほどの表現の計り知れない説得力と必然性があり、まさに前人未到の傑作であり新たなる名盤の誕生である。これは、まずクレーメルの素晴しさ凄さに存することは言うまでもないが、やはりマンフレート・アイヒャー率いるECMのプロデュースの本領・底力が発揮されたものと解釈すべきであろう。クラシックの王道をいく作品においても名盤を生み出すECMに万歳!J.S.Bachも時を越えて、さぞかしご満足お喜びのことと存じます。(一幸斉)
★アーティスト
Gidon Kremer violin
★アルバム・データ
Recorded March and September 2002
ECM New Series 1926-27

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2007年7月27日 (金)

「Octet/Music For A Large Ensemble/Violin Phase」 Steve Reich

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Img_ecm_n_1168『Octet/ Music For A Large Ensemble/ Violin Phase』はECMより発表されているスティーヴ・ライヒの3作品中の1枚で、兎にも角にも理屈抜きに聴いてもらいたい傑作。きっと、夏場の暑さに疲れた頭と感覚をクールダウンして心地よくリセットできることでしょう。スティーヴ・ライヒは、ミニマルミュージックを代表する作曲家としての見方が一般的であるが、その作風はミニマルミュージックのスタイルには収まらない作品も多い。ミニマル・ミュージックとは、パターン化された音型を反復させる音楽であるが、ライヒは、ほぼ同期していた2つの音源(テープループ)が周期的に次第にずれていくことによる"モアレ効果(空間周期的うなり現象)"に着目して、単純な反復の繰返しに生じるずれが、徐々に微細な変化を遂げるというアイデアを作品に応用した。徐々にフェーズしていくパターンを作る"フェイズ・シフティング"の技法や、フレーズやメロディの一部を一時的に増幅させ繰り返す"オーグメンテーション"の技法を駆使して、リズム、ハーモニーにおいてもユニークな表現を作り出している。また"Music For A Large Ensemble"に代表される、演奏家が増えることによる音響心理学的な増幅効果も大きい。そんなライヒの作風において、当作品の"Octet"は圧巻であり、さまざまな要素が重厚に変化していく様は感動もの、何度聴いても引き込まれる鮮度抜群な魅力が最高。この作品は疲れた時のクールダウンに、愛聴盤に聴き飽きた時の感覚リセットに超オススメの一枚!(一幸斉)
★アーティスト
Russ Hartenberger: marimba,   Glen Velez: marimba,
Gary Schall: marimba,   Richard Schwarz: marimba,
Bob Becker: xylophone,   David Van Tieghem: xylophone,
James Preiss: vibraphone,   Nurit Tilles: piano,
Edmund Niemann: piano,   Larry Karush: piano,
Steve Reich: piano,   Jay Clayton: voice,
Elizabeth: Arnold voice,   Shem Guibbory: violin,
Robert Chausow: violin,   Ruth Siegler: viola,
Claire Bergmann: viola,   Chris Finckel: cello,
Michael Finckel: cello,   Lewis Paer: bass,
Judith Sugarman: basse,   Virgil Blackwell: clarinet,
Richard Cohen: clarinet,   Mort Silver: flute,
Ed Joffe soprano: saxophone,   Vincent Gnojek: soprano saxophones,
Douglas Hedwig: trumpet,   Marshall Farr: trumpet,
James Hamlin: trumpet,   James Dooley: trumpet,
★アルバム・データ
"Music For A Large Ensemble and Octet" Recorded February 1980
Colembia Recording Studios, New York
"Violin Phase" Recorded March 1980 Tonstudio Bauer, Ludwigsburg
Engineer: Martin Wieland
Cover notation: Octet, last ten bars,
Steve Reich - manuscript
Photos: Deborah Feingold
Cover Design: Barbara Wojirsch
Produced by Manfred Eicher
ECM New Series 1168

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2006年5月17日 (水)

「Der Bote - Elegies for Piano」 Alexei Lubimov

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Img_ecm_n1771_1■アレクセイ・リュビーモフ選曲・演奏による「エレジー・フォー・ピアノ」は、3世紀間のレパートリーから集められた慎ましい傑作群。それらの気取らない瞑想的詩情と作者の深い内的衝動が共通性として感じられる。エレジーとはギリシャ語のエレゲイヤに由来しエレゴスというのは追悼詩で、拡大解釈すれば追悼音楽とも言える。追悼、メランコリー、さまざまな時の流れや別離、失われた時へのノスタルジックな思いすべてが、「エレジー的な音楽のタイトル」に内在する。リュビーモフはエレジー的曲を関連付けたり対照させるように選曲しているのが窮めて妙味である。冒頭のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの「幻想曲(1787年)」が最も近代的に聴こえたり、シルヴェストロフの「メッセンジャー(1996・7年)」がまるで18世紀のの作品のように聴こえたりすることも、奇妙でありながら必然である。またグリンカ・ショパンの作品の優しさと、リスト・バルトーク・ドビュッシーの作品の抑制的慎ましさは対照的で、コントラストが効いている。そして最も前衛的な作曲家であるジョン・ケージの「ある風景の中で」が繊細で詩的な華を披露する。それは西洋の対極にある東洋の「蓮華」ようだ。このリュビーモフの豊かで幅広い表現力と作品への絶妙な解釈は、これらの作品を見事に昇華している。聴けば聴くほどにエレジーかな、時空を超えた感性の記憶が縦横無尽に連鎖し、もう至極最高。さすがECMである。ちなみに、私が「Der Bote - Elegies for Piano」を始めて耳にしたのは、【柴原珈琲店】でした。(一幸斉)
★アーティスト
Alexei Lubimov piano
★アルバム・データ
Recorded December 2000
Radio DRS Zurich
Tonmeister: Peter Leanger
Cover: Jan Jedlicka
Photos: Christoph Egger
Design:Sascha Kleis
Produced by Manfred Eicher
An ECM Production
ECM New Series 1771

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2005年6月27日 (月)

「Federico Mompou / Música Callada」Herbert Henck

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IMG_ecm_n1523 ヘルベルト・ヘンクECMデビュー作品、「フェデリコ・モンポウ/ムジカ・カラーダ」。この作品がECMから発表されたことに、誠に興味深い感がする。それはムジカ・カラーダとのタイトル(直訳で「音なき音楽」)にある。モンポウが傾倒したスペインの詩人サン・ホアン・デ・ラ・クルースの「高鳴る沈黙、音なき音楽」という作品があり、モンポウは深くその意を汲んで、自分の最も秘めやかな音楽想念の作品にこのタイトルをつけたと言われている。
 ですから、これは「沈黙に次ぐ最も美しい音」を追求するECMの作品として当にはまりにはまった企画といえよう。作曲家の内奥にある詩的想念から零れ落ちた沈黙の音を見事に表現した名盤である。大人のスローライフにぴったりの音楽としてもお奨めだ。
 ヘンクは1948年ドイツ・ヘッセンに生まれる。マンハイム音楽院、シュツゥットガルト高等音楽院でピアノを学び欧州・北南米で精力的に活動を展開。一方で20世紀のスペシャルな作曲家、中でも過小評価されている作曲家を積極的に採り上げている。
 モンポウは母方にフランス系の血を引くスペインの作曲家。1893年バルセロナ生まれ1987年没。バルセロナのリセオ音楽院に学ぶが,エンリケ・グラナドスの推薦で1911年にフランスのパリ音楽院へ進む。フォーレとマルグリット・ロンの演奏会を耳にしてフォーレに傾倒。イシドール・フィリップとフェルディナンド・モット=ラクロワにピアノを、マルセル・サミュエル・ルソーに和声法及び作曲法を師事。
 小節線や調性記号のない「プリミティヴ・スタイル」と呼ばれる手法で自由で感覚的な和声による作品を残し、音楽史上特異な位置を占める近年再評価著しい作曲家。
 形式面ではエリック・サティ、和声法や旋法の面ではクロード・ドビュッシーの影響が濃く、土着民謡や東洋音楽に影響を受けた簡素な形式と近代的な和声とを巧みに組み合わせた極めてナイーブで内省的なスタイルを確立。(一幸斉)
★アーティスト
Herbert Henck piano,
★アルバム・データ
Recorded August 1993
Festeburgkirche Frankfurt am Main Tonmeister: Andreas Neubronner
Photo: EFE Agency
Cover Design: Barbara Wojirsch
Produced by Manfred Eicher
An ECM Production
ECM New Series 1523

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2005年5月13日 (金)

「The Weeping Meadow」Eleni Karaindrou

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 ギリシャ人映画監督テオ・アンゲロプロスの「エレニの旅」オリジナル・サウンドトラック盤。音楽は彼の作品に欠かすことの出来ないギリシャ人作曲家エレニ・カラインドルー。彼女が紡ぎ出す音世界を言葉で表現するのは不可能に近い。一つの世紀にわたって次から次に処を奪われ続ける難民として、ギリシャ現代史をひたすらな愛で旅していく一人の母性「エレニ」にはギリシャそのものの姿が投影されている。カラインドルーの音楽は私たちの心の中で移動しながら命の深い部分に共鳴を与える。そして、そのメッセージは消えることがない。
 追放、ノスタルジックなアコーディオンの音。絶望と郷愁をオーケストが厳かに奏でる。ストリングスの忍耐強い鼓動。蘇生のリズムを追うハープ。コンスタンティノーブルリラが喚起する音はアンサンブルと相俟って民族性とその背景を想起させる。祈りの合唱さえ言葉を交わしているかのようだ。
 タイトルの「The Weeping Meadow」は邦題「嘆く草原」、直訳は「涙ぐむ牧草地」となろうか   。カラインドルーはライナーの冒頭で次のように語っている、『「エレニの旅」は記憶の断片から、そしてオデッサとスミルナから追われた何千という人々が足跡を残した土地への思いから作られています。土地は彼らが再び住み着き、自分たちの悲しみを歌うのを目にし、彼らの期待と信念と夢を感じ、失くした望みを彼らとともに静かに嘆き悲しみました。』と。難民の望郷への思いと郷愁。打ち砕かれる未来への希望。叶えられない家族愛。この重厚なる現実とその背景・本質から醸し出される厳粛なサウンド。20世紀とは戦争とその歴史に振り回されて移動する人々の苦悩の世紀であったことを痛切に思い知らされる作品である。(一幸斉)
■「エレニの旅」はシャンテ シネ他、絶賛上映中。

★アーティスト
Maria Bildea harp, Konstantinos Raptis accordion, Socratis Sinopoulos constantinople lyra, Vangelis Skouras french horn, Renato Ripo violoncello, Sergiu Natasa violin, Angelos Repapis double-bass, La Camerata Athens String Orchestra, Eleni Karaindrou piano, Hellenic Vocal Ensemble/Antonis Kontogeorgiou choirmaster
★アルバム・データ
Recorded April 2003
Studio Polysound,Athens
Recording engieer: Giorgos Karyotis
Editing and mastering: Yiannis Ioanidis, Petros Siakavellas, Manfred Eicher at Digital Press Hellas
Stills: Dimitris Sofikitis, Andreas Sinanos ( p.10-15,18)
Photo( p.24): Takis Diamantopoulos
Design:Sascha Kleis
Produced by Manfred Eicher
An ECM Production
ECM New Series 1885 UCCE-2037(日本版)

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2005年5月10日 (火)

「Kultrum - Music for bandoneon and string quartet」Dino Saluzzi / Rosamunde Quartett

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 ピアソラ亡き後バンドネオンの第一人者として活躍する巨匠ディノ・サルーシと若手新進気鋭のロザムンデ・カルテットによる「 Kultrum - Music for bandoneon and string quartet (サロン・デ・タンゴ)」
 心の奥底から感動し聴くほどに引き擦り込まれる名盤。アルゼンチンの情景を想起させる曲の構成とバンドネオンと弦楽四重奏が一体となった音楽的生命力が鮮烈で凄い。聴き手は抑えることの出来ない郷愁を呼び起こされて、その濃厚なる音楽世界に魅了されてしまう。
 Kultrumのプロジェクトは1996年に始められ2年のロードワークが費やされ、サルーシとロザムンデの4人それぞれが主客不分すなわち個と全体が融和し、音は同化と吸収を繰り返しながら一体となり昇華されていった。その音楽はタンゴというジャンルや弦楽四重奏という形式及びそのルーツを意識することを超越している。まさにECMでなければ成し得ない名作であろう。
 サルーシのサウンドは、幼少の頃に耳にした民族音楽や印象主義からジャズ等、アルゼンチンに影響を与えた音楽が渾然一体となっている。その表情は多彩で、時に神秘的で、俗っぽく、粗削りで、繊細だ。誰もが持つ故郷そして根源的なものへの郷愁。幼少期に過ごした小さな村での質素な生活への想像上の回帰が、大都市の洗練され過ぎた生活と並べられる。彼はある意味で社会批評家であると同時にそれを表現できるロマンティストである。ラテンアメリカの歴史を背負う複雑な心模様は、バンドネオンの巨匠の立場として伝統を守りつつ、革新をも躊躇しない彼の音楽に厳かなオーラを醸し出している。
 ロザムンデ・カルテットは1991年にドイツのミュンヘンで結成されて以来、瞬く間にトップランク入りをし、ヴェーベルン、ブリアン、ショスタコーヴィチの作品や、近年はハイドンの難曲にも取り組んでいる。メンバーは第1ヴァイオリンのアンドレアス・ライナー、第2ヴァイオリンのサイモン・フォードハム、ヴィオラのヘルムート・ニコライ、チェロのアニヤ・レヒナー。ことにチェロのアニヤ・レヒナーは前衛的タンゴのプロジェクトに14年のキャリアがあり、サルーシのソロアルバム「クルトゥルム」に触発魅了されていたことが起因となって、Kultrumのプロジェクトへの参画が実現している。
 後述。日本とアルゼンチンとの根源に思考を巡らしてみた。元来、ファーイースト(東洋の東端)とファーウエスト(西洋の西端)はモンゴロイド民族の国土である。南米諸国はスペイン・ポルトガルの影響が濃い。日本への西洋文化の伝来はスペイン・ポルトガルであった。南米諸国には日系移民も多く根源的な繋がり(因縁)が想像する以上に深きことを感じる。(一幸斉)

★アーティスト
Dino Saluzzi bandoneon,
Rosamunde QuartettAndreas Reiner violin, Simon Fordham violin. Helmut Nicolai viola, Anja Lechner cello
★アルバム・データ
Recorded March 1998
Propstei St.Gerold
Tonmeister: Markus Heiland
Cover Photos: Flor Garduño
Liner Photos: Konrad R. Müller
Design:Sascha Kleis
Produced by Manfred Eicher
An ECM Production
ECM New Series 1638

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2005年4月30日 (土)

「Chants, Hymns and Dances」 Anja Lechner cello / Vassilis Tsabropoulos piano

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 ECMニューシリーズからの作品。ドイツ人のアニヤ・レヒナー(チェロ)とギリシア人のヴァッシリス・ツァブロプーロス(ピアノ)による「Chants, Hymns and Dances(聖歌、讃歌、舞踏)」は、東洋的旋律が鮮烈で胸を打つと共に親近感を覚える。アジアとヨーロッパとが交差する背景から生まれた、東洋と西洋、作曲とアレンジと即興、過去と現代、さまざまな要素において境界線をぼかす魅惑的作品。前半と後半にグルジェフの楽曲が、中間にツァブロプーロスの楽曲が配され、弧を描くように構成されている。この録音で、グルジェフの楽曲はこれまでになく自由に扱われ、即興的要素が自然な感じをもたらしている。ツァブロプーロスの楽曲はビザンツ音楽への即興的アプローチを試み、レヒナーのチェロの参加によって手にした自由とリリシズムを漂わせている。それはまたギリシャが東洋への始まりであることを想起させる音楽でもある。
 レヒナーとツァブロプーロスはクラッシクの演奏家でありながら即興の経験があり当作品に功を奏していると思われる。レヒナーはタンゴ・ヌオーボからフリーな演奏までの即興を経験し、記譜されたものと自然発生的なものとの区別を曖昧にするようなプロジェクトにも関わってきた。ツァブロプーロスはクラッシクとジャズの演奏家および作曲家として明確な二面性を持ち活動している。
 少しグルジェフについて触れておこう。彼はアルメニアとトルコの国境の町アレクサンドロポルで、1877年ギリシャ人の父親の元に生まれた。南コーカサス地方は複数の民族と宗教が混ざりあった独特の文化風土をもつ。彼は人間の生の意味にかかわる真理を探究し、その答えを東洋の秘教的伝統のなかに求め、前半生の約二十年を、小アジアからコーカサス地方、西南アジア、中央アジアの国々へ、東洋の辺境をめぐる探求の旅に費やした。その旅の内から種々の精神的な伝統を研究して、民謡、農民の踊り、神聖で儀式的音楽や歌・踊りが、おぼろげに記憶され、弟子でウクライナの作曲家/ピアニスト/ハルトマンへの口伝および記録により、現在でも演奏が可能となった。(一幸斉)

★アーティスト
Anja Lechner cello, Vassilis Tsabropoulos piano
アルバム・データ
Recorded December 2003
Festeburgkirche,Frankfurt am main
Tonmeister: Markus Heiland
Cover: Jan Jedlicka
Photos: Roberto Masotti (pp. 6-9)
Ruben Mangasaryan /Patker Photo Agency
Design:Sascha Kleis
Produced by Manfred Eicher
An ECM Production
ECM New Series 1888, UCCE-2038(日本版)

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